in theクローゼット
 沈痛な面持ちで二階の廊下を歩いていると、弟たちの部屋に続く障子戸から足が突き出ていた。


「また破ったのかよ……」


 しゃがみ込んで部屋からはみ出した足の裏をくすぐると、中から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


「くすぐったいよぉ」


 足をばたつかせながらそう言ったのは浩二で、


「圭兄ちゃん、今日もお家にいるの?」


 こっちは祐二だ。


「んー、いや。これからちょっと出かけてくる」

「えー、つまんない! ぼくたちも行く!」


 似た声が二人分、同じ言葉を発する。


「ダメ。遊びたいなら学校の友達誘いな」


 気晴らしをしたいのに、弟二人とじゃ余計に疲れてしまう。


「――――なあ、オマエら。俺が男の人と結婚したらどうする?」


 ホロリと唇からこぼれた言葉。

 母に打ちのめされて、弟たちにまで聞くつもりはなかったのに。


「圭兄ちゃん、男の人と結婚するの?」

「じゃあ、その人も僕たちのお兄ちゃんになるんだね」

「お兄ちゃんがもう一人増えるの?」

「そうだね!」

「…………」


 妙な感じに弟二人は障子の向こうで話し出し、俺はちょっと吹き出しそうになった。


「やった!」


 二人の嬉しそうなハモり声に、俺は口元を押さえて肩を震わせる。


「ねえねえ、新しいお兄ちゃんいつ来るの?」

「来るの? 来るの?」


 障子が開かれて、同じ顔が二つのぞいてきた。

 声を上げて笑いそうになり、それをを必死にこらえながら「ごめん、冗談」と言う。


「えー、なにそれぇ!」


 弟二人は残念そうに抗議の声を上げた。
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