【完結】遺族の強い希望により
男は悩んでいた。
初めて本気で愛した女のことを、片時も忘れたことはなかったはずだった。

けれど時の流れとは残酷なもので、思い出は決して色褪せないままなのに、新たな別の記憶が次々にそれを上塗りしていく。
あの頃の倍以上生きてしまったのだから、それは仕方のないこと――自然の摂理とも言えた。


大学生になった頃には吹っ切ったつもりになって、別の女性と交際もした。
最初の恋人の時にはどうしてもジェシカのことが過ぎりことあるごとに比較してしまってすぐに駄目になったが、その後に出来た彼女とは長く続いた。

何人かと付き合い別れを繰り返す内に、恋とはいつか終わりを迎えるものなのだと彼は知った。
そして大人になってから気が付いたのは、自分は恋は出来れど、愛したのはあの時だけなのだという事実だ。
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