【完結】遺族の強い希望により

彼自身も、それを望んだ。
そのために自分がしてやれることを出し惜しんではいけない。


それから彼は妻のことを思った。
まだ何も知らない彼女は、キッチンで夕食の準備をしているところだった。

これは背徳ではない、妻に対する裏切りではないとは自信を持って言えた。
だが真実を知らせるべきだろう。
それがどれだけ彼女を傷つけ悩ませることになっても。


苦悩した時間は体感したよりもずっと長かったようで、彼の決心が固まる前に食事の準備が整っていた。
料理の上手な妻だ。
生家よりも今ではこの味が、隆司にとっての家庭の味になっていた。