【完結】遺族の強い希望により
『俺たちの子どもを』――亮は確かにそう言った。
それだけは、救われた気分だった。


彼はあの恐ろしい掲示板を見たか、或いは誰かに内容を聞いたのだろう。
にも拘らず、嘘に塗れた書き込みの山の中から真実だけを拾い上げてくれた。

複数の男に媚を売って寝たりなどしていない。
レイプなどされていない。
トイレで吐いていたのは事実だが、病気などではなかった。


自分が妊娠している、そう気付いた時に、みのりはお腹の子を1人で育てる決意をした。
他の何を失っても構わない。
例えこの子の父親が戻って来なくても。
彼にこの子の存在を伝えることすら出来なくても。


両親は反対するに違いなかった。
だから、ぎりぎりまで隠し通そう。
出産は諦めろと説き伏せようとしてきても中絶出来ない時期まで、この子を1人で守り抜くのだ。

父親のいない子どもは不幸だろうか。
そんなことはない。
何人かそういう友人がいるが、誰もが順応して生きている。
片方しかいないからこそ親は倍愛し、子は倍愛し返す――みのりの目には、そんな風に見えていた。
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