【完結】遺族の強い希望により
「あの……夫から、あなたたちのことは聞いておりました。知った上で今まで送り出して来たのは私なんですから、そんな風に……困ります、頭を上げてください」


夫は水の事故死だと聞いていた。
彼女がここにいるということは事故が起こった時にも一緒にいたのかもしれないが、その責任を追及する気は美和子にはなかった。


何故、と思わないわけではない。
夫が大昔とは言え一度は本気で愛したという女の元へ、2年に一度の周期で送り出すのは面白くなかったのが本心だ。
けれどそれは、美和子自身が選んで夫の後押しをしてきたことである。

ジェシカやその子、孫たちの存在を、こんなことになると分かっていたら初めから認めなければ良かった。
夫が彼女たちに会いにオーストラリアへ行くことを、自分が許しさえしなければ良かったのだ。

不運な事故の結果として、そのような後悔は確かに湧いた。
だが全て、美和子が悩んだ末に自分で決めたことだった。
結果論でジェシカを責めるのは筋違いだ。
< 227 / 450 >

この作品をシェア

pagetop