睡恋─彩國演武─

毅然とした態度に威圧され、衛兵は押し黙った。


「まぁいい。どうせお前は明日にでも贄になる。連れの男もな。……せいぜい死後の暮らしを神に祈るんだな」


吐き捨て、衛兵は牢を後にする。


(その神に喰われるのだろうが……)


どこまでも頭の悪い男だ。

浅はかな考えに笑いが込み上げる。

千霧は狭い牢の中で足を抱えてうずくまる。

どうしてだろう。

……妙に、寒い。

軽装なだけに、薄着なので石造りの冷たい床はこたえる。

床についていた右手に、ひんやりとした物が絡み付いた。


「………ッ!」


驚いて手を放すと、指先に何かが付着していた。

目を凝らすと、それは何かの皮のように見えた。

鱗が透ける。


「蛇……?」


先ほど手をついていた場所をよく見れば、脱皮の後の皮の様なものが確認できた。

滑りを帯びた感触から、まだ新しいものだろう。


千霧の脳裏に王の顔がよぎる。

あの時感じた違和感は。

妙に長い舌。

面長くなった顔。

青白い肌。

落ち着きのない態度。


それらは全て“蛇憑き”の特徴だ。


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