睡恋─彩國演武─

まだあまり言葉を交わしていないから、会って聞きたいことが山ほどある。


「あ、千霧さま」


思い出したように沙羅が振り向いた。


「なに?」


「今日は庭の睡蓮がとっても綺麗ですの。後でご覧になってみて下さいな」


花のように笑う彼女は本当に愛らしい。

そんな彼女のことを狙う者は宮中にも大勢いるが、なぜか彼女自身は全く興味を示さない。

そうして泣かせた男の数は計り知れないだろう。

彼女を見ていると、ときに羨ましく思う。

彼女なら、女としての幸せを手に入れられる。

普通に恋愛をして、普通に結婚をして。

無性の身ではけして手に入れられないもの。

男としても、女としても、不完全だから。


女として男を愛することも、男として女を愛することも、自分には考えられない。


「……うん」


小さく返事を返すと、沙羅は満足気に大きく頷いて見せた。


< 22 / 332 >

この作品をシェア

pagetop