睡恋─彩國演武─

〔壱〕宵の迷い子



〔壱〕宵の迷い子



ちぎり。

……千霧。

また、違う名前で呼ばれる。

その名前を聞くと、何かがおかしくなる。


「──誰だ!」


「我の声も忘れたか?」


「いいや、月読。わかるよ、私は誰も忘れていない。でも、その名前で呼ばないでくれ」


「どうして?お前の真名ではないか」


「──違う!千霧など知らない。私は千珠だ」


千珠は耳を両手でふさぎ、首を振った。


「千珠?」


部屋の闇から蒐が現れ、千珠の腕を掴んだ。

大きな声に驚いたのだろう。


「蒐……。すまない、大丈夫だから」


「心配は無用か?」


「ああ。ありがとう」

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