睡恋─彩國演武─





気分転換に中庭に出ると、昨日咲き誇っていた睡蓮の花は閉じていた。

それだけで、風景は一変して寂しいものになる。


「千霧さま、そろそろお出迎えを……」


侍女の一人が機械的に頭を下げた。


「……わかった。呉羽も呼んでおいて。すぐに行くから」

「かしこまりました」

侍女は一礼すると、呉羽の部屋へ向かって行った。

その後、心配して捜しに来た沙羅に半ば強引に門前へと連れてこられた。

「千霧さま、気が進まないのでしょう?」

先程から虚ろな千霧を見かね、沙羅が問いかける。

それでも、返事は返ってこない。


「千霧さま?」


顔を覗くと、心なしか蒼白く、身体が小さく震えていた。

「……」

千霧の中で、大きな塊がとぐろを巻いていた。

恐怖、不安などの巨大な負の存在。

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