睡恋─彩國演武─


「沙羅さま!」


すかさず下男が駆け寄ってきて、沙羅の前に立ちはだかる。

確か紫蓮付きの、沙羅に片想いしていると噂の男だ。
下男は千霧を鋭く睨みつける。

「アンタなんか……アンタなんかが此処にいるから……!沙羅さまがこんな目に……」

大きな声で威嚇され、千霧はピクリと震えた。

「アンタなんか出ていけばいい……ただの禍(わざわい)なんだ!皆知ってる。皇の子ではなく、本当は化け物の子なんだってな!」


男の叫びに近い大声に、周囲の注目が集まる。

千霧は反論せず、ただその場に立ち尽くしていた。


冷静さを失い、頭に血がのぼっている男は、それが気に入らなかったのか千霧の胸元に掴みかかった。

「なんとか言えよ!化け物め!」

乱暴に身体を揺さぶられ、千霧は苦しさに小さくうめいた。

それでも、すでに抵抗する気力は絶えていて、視点の定まらない瞳で宙を見つめる。

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