睡恋─彩國演武─
*
「夜が明けないうちに、朱陽を出よう。私を闇が隠してくれるうちに……」
千霧は窓の外の沈む太陽を見つめながら、これからのことを考えていた。
行く当ての無い旅だが、目指す場所はある。
「そうですね。貴方は、ここでは目立つ」
「うん。それに白樹までは長いから、少しでも急がないと。こうしている間にも、状況は悪化していく」
進まなければならない。
進まなければ、変わらない。
(私には、進むことしかできない)
抱えていた月魂を、ギュッと抱き締めた。
*
太陽は顔を隠し、月が嗤う。
朱陽は、静寂と闇に包まれた。
「……では、行って参ります」
千霧は、紫蓮に向かって深く頭を下げる。
「残念だね。父上も見送りに来れれば良かったけど……執務を空ければ国が混乱するからってさ」
彼は肩を落としながらそう告げた。
「いいんです。……仕方ありません」
最後だから、できれば父にも会いたかった。
でもそんな願いさえ口にすることが出来ない自分が時折、憎らしくなる。
「沙羅」
先程から何も言わない彼女の背中を、紫蓮が押した。
「お気をつけて……」
笑顔を作る。
千霧は答えず、ただうっすらと微笑んでから、王宮に背を向けた。