糸 By of fate
空っぽ。
楓side

叶愛と出会う少し前。

俺は柊と一緒にメンズモデルをしていた。

その日は、撮影があって、柊は愛夢とデートの約束はあるみたいで、帰りは別々だった。

久々に一人で帰るから、少し街をうろつくことにした。

オシャレな店、おいしそうなカフェ、綺麗な景色・・・

一人で歩いていたら、新しく見つけるものがたくさんあった。

それにしても、柊と愛夢は相変わらず相思相愛って感じだな。

正直、羨ましいと思う。

俺の周りの女子っていえば、俺の容姿だとか、俺と付き合って得る地位とか、そんなものしか見ていない。言われなくても、バレバレだ。

俺も柊と愛夢みたいな、メリットとかそんなものは関係なく愛し合えるような存在がほしい。

新しい発見をしながら、俺はそんなことを考えていた。

そろそろ帰るか。

俺は家の方向に足を進めた。

そのときだった。

透き通るような綺麗なハスキーボイスの歌声が聴こえてきた。

しかも、俺のお気に入りのKanaの曲だ。

それは、自転車で俺の横を通り過ぎた女の子の声だった。

風が吹いた瞬間、かすかに甘いベリーの香りがした。

俺はとっさに振り返った。

その瞬間。

ガシャンッ。

彼女は自転車から落ちてしまった。

俺は思考より先に体が動いていた。

「大丈夫っ!?ケガしてない?」

俺はすぐに彼女に声をかけた。

彼女はうつむいていた。

でも、声をかけてきた俺に気づいたのか顔を上げた。

ドキッ

嘘だろ・・・。

そこにはこの世のものとは思えないほどの美人がいた。

柔らかそうなこげ茶色の髪、雪みたいに真っ白な肌、吸い込まれそうな綺麗な瞳・・・

こんなに美人な日とは見たことがないかもしれない。

「あ、大丈夫ですよ!ありがとうございます!・・・?」

固まってしまっていた俺を不思議そうに彼女が見上げてきて、我に返った。

ここまで上目遣いが自然で可愛い子を初めて見た。

「あっ・・・、大丈夫ならよかった!・・・あ、ひじすりむいてるよ。俺、ちょうど今、絆創膏持ってるからよかったら使って?」

俺は彼女のひじに絆創膏を貼ってあげた。

「あ、えへへ///ありがとう!私、叶愛!よろしくね!」

彼女は少し照れくさそうにお礼を言った。

「どういたしまして。俺は楓。よろしくな。」

「うんっ!楓!じゃあ、私、そろそろ帰らなきゃいけないから・・・。またねっ!」

「おう。気をつけて帰れよ?」

「ありがとっ!」

「またな!」

こんなに女子と笑って話したのは初めてだな。

また会える気がして、ついまたななんて言ってしまった。

俺は、叶愛が信号に着くまで見届けた。

信号に着くのを確認すると、向きを変えて、俺はまた歩き出そうとした。

そのときー。

キィィィィィッ。

ものすごいブレーキ音が聴こえた。

嫌な予感がして、振り返ると。

歩行者用の信号は青になっていて、横断歩道のど真ん中には叶愛が血を流して倒れていた。

俺はすぐさま叶愛の元へ走った。

悪い予感が当たってしまった。

俺は叶愛の元へ着くと、叶愛を抱き起こし何度も名前を呼んだ。

「おいっ!叶愛!しっかりしろ!!叶愛っ!」

俺は血まみれになっていくのも気にせず、何度も何度も叶愛の名前を呼んだ。

どうもトラックの運転手が運転中に居眠りをしてしまったらしく、起きたときには歩行者用の信号が青になっていて、慌ててブレーキを踏んだけど間に合わなかったという。

俺は、仕方ないとは思えず、怒りを感じた。

けど、今は叶愛を助けなきゃ。

近くの人に救急車を呼んでもらった。

俺は、母さんと柊に帰りが遅くなるというメールをして、叶愛に付きそうことにした。

少しして、救急車が来たので叶愛と一緒に乗った。

お願いだ。助かってくれ・・・!!

叶愛は、叶愛は・・・俺の・・・

大事な人なんだ。

叶愛が助かることを祈ってるうちに気づいた。

俺は叶愛に一目惚れして、恋をしたということ。

手術中、何度も何度も願った。

叶愛が助かることだけをひたすら・・・。

叶愛の両親はすでに他界してしまっていて、一人暮らしをしているらしい。

愛夢は叶愛とクラスメイトで仲がいいらしいため、柊と一緒にこれから来てくれるらしい。

叶愛の無事を祈りながら、柊たちを待っていた。

「楓っ!!」

「柊・・・。どうしよう・・・、おれっ・・・、俺・・・。」

「びっくりしたな。俺らも一緒に待つから、叶愛ちゃんの無事を祈ろう。」

「叶愛・・・。」

愛夢が不安そうに呟いた。

しばらくして、手術中のランプが消え、中から先生が出てきた。

「先生っ!!叶愛は・・・?」

愛夢が今にも泣きそうにしながら先生に叶愛の無事を聞いた。

「あぁ、体には問題はない。2,3日入院すれば大丈夫だよ。だが・・・。」

「“だが”なんですか・・・?叶愛になにかあったんじゃ・・・!!」

「一部の記憶がなくなってしまったみたいでね・・・」

「そんなっ・・・!!」

愛夢がついに泣き出してしまった。

俺も心臓が止まりそうになった。

記憶が・・・ない・・・?

「あぁ。君たちのことは覚えているみたいだよ?さっき脳の検査をするときに最近会った人について聞いて君たちのことを言っていたから。ただ・・・、彼女は、“すごく思い出さなきゃいけない人がいる気がする”と言っていたよ?」

「じゃあっ!とりあえず私たちのことは覚えているんですね!?」

「あぁ。そこは大丈夫だよ。もう彼女に会ってもいいよ。」

俺は少し安心した。俺のことも覚えてくれているらしい。

俺たちは急いで病室に向かった。

ガラッ。

「叶愛・・・?大丈夫・・・?」

愛夢が声を震えさせながら、聞いた。

窓の外を見ていた叶愛がこっちを向いた。

「あっ、愛夢!来てくれたんだね!ごめんね、心配かけちゃって・・・。」

「と、叶愛~っ・・・」

愛夢は安心したのか叶愛に抱きつきまた泣き出した。

「ふふっ、ごめんね?よしよし。あ、楓もついさっき会ったばかりなのにごめんね?ここまで運んできてくれたみたいで・・・。また助けられちゃったね。」

「そんなこと全然良いよっ!それより、体は大丈夫なのか?」

「うんっ、お医者さんがうまく手術してくれたみたい!3日後にはもう退院してもいいって。」

「そっか。それならよかった!」

「うんっ、本当にありがと!えっと・・・ごめんなさい。そちらの方は・・・?」

柊に会ったことがないため、誰かわからないみたいで首をかしげた。

「あ、俺は柊!楓の双子の兄で愛夢の彼氏だよ。よろしくな?」

「へぇ~!よろしくね!よく見れば二人とも似てるね!二人ともかっこいい!愛夢の言ってた彼氏って柊君だったんだ~!」

「ちょっ・・・!!叶愛っ!その話はだめっ!!恥ずかしいからっ!」

泣いていた愛夢が泣き止んで、叶愛を止めた。

「へぇ?俺の話ってなんだろ~?気になるな~?」

「女の子だけの秘密ですぅ~!///」

柊が愛夢をからかっている様子を見て、俺と叶愛は笑った。

よかった。叶愛、なんとか元気そうだ。

「あーぁ。どうしよ・・・。生活費とかは大丈夫だけど、入院費もとなるとそろそろバイトしなきゃかなぁ~・・・。」

叶愛が言った一言に愛夢が飛びついた。

「えっ!?叶愛、バイト探してる!?じゃあっ、私と一緒に仕事しない?!」

「えぇっ!!愛夢の仕事ってモデルじゃん!!無理だよ~・・・、私、可愛くないもん・・・」

え?自分のこと可愛いと思わねえの?そんなに美人で!?

すっげえな。美人で心まで綺麗とか初めて見た。

「なにいってんの!!そんなに可愛い顔してるくせに~!!ねっ?お願い!!やろ~?次の仕事のペア、ちょうど探してたの!!叶愛となら楽しく仕事できるしさぁ!!おねが~いっ!」

「えっ、う~ん・・・。・・・わかった。愛夢がそこまで言うなら・・・。あんま自信ないけど・・・。」

「ほんとっ!?やったぁ~♪明日、早速マネージャーに言わなきゃ!いや、お見舞いに連れてくるね!あっ、ちなみにそこの二人もメンズモデルしてるんだよ~!」

「あ、そうなの?へぇ~、楽しそうだね!」

「でしょでしょ?今度、二人はスターピースっていうユニットを組むの!私も同時期にツインスターズっていう名前でユニット組むことになっててペアを探してたの!」

「そっか!じゃあ、よろしくお願いします!!」

こうして、俺たちのモデル活動も叶愛が入ったことでさらに楽しくなることになった。

・・・ただ、引っかかるのは、叶愛の"思い出さなきゃいけない人"という存在だ。

彼女の中には一体、誰がいるっていうんだ。

それでも、俺は叶愛に好きになってもらう。

叶愛の中にいる存在が誰であろうと。

俺は叶愛にあのとき確かに何かを感じたんだ。あの目を初めて見たときに。

「それじゃあ、叶愛!!明日はマネージャー連れてくるから!!待っててよね~?♪」

「ふふっ。は~い♪」

愛夢と話していた叶愛に俺は話しかけた。

「な、なぁっ!お、俺も明日、見舞い・・・来てもいいか・・・?」

自分でもわかるくらい顔が赤かったと思う。

叶愛は少しビックリしていたが、そのあとにっこり笑った。

「えへへっ、もちろん!ありがと♪」

「おう。じゃあまた明日な?」

「うんっ、また明日!」

俺は叶愛の頭をくしゃくしゃと軽く撫でて柊たちと病室を出た。

病院の長い廊下を歩いていると、

「なぁ、楓~?」

柊がにやにやした顔でこっちを見た。

「なんだよ、その顔・・・」

「お前さぁ、叶愛のこと好きになっちゃったんだろ?」

柊がズバッと聞いてきた。

こういうことに鋭いからな・・・。

「あっ、それ、愛夢も聞こうと思ってた!」

「はっ!?」

愛夢も気づいていたのには驚いた。

「バレバレだよ?よかったね~?これからは仕事も一緒にできんじゃん?同じ事務所だし~?愛夢のおかげ♪」

愛夢がスキップしながら廊下を進み始めた。

「なんだよ・・・、ばれてんのかよ・・・」

「いや、ばれねえ方がおかしい。叶愛は気づいてねえみたいだけど?」

「叶愛は鈍感ちゃんだからね~」

「叶愛にばれてないならよかった・・・。」

聞こえないように呟いたつもりだったのに、二人には聞こえたみたいでニヤニヤされた。

ピタッ。

愛夢が急にスキップをやめて、真剣な顔でこっちを見た。

「叶愛の思い出せない人は、きっと琉・・・。叶愛の元彼。すごく強いライバルになるかもね・・・。元彼だから、よくわからないけど。でも、愛夢はもちろん楓を応援するよ?楓になら、叶愛のこと任せられるしねっ♪」

「俺も楓の味方だぞ?」

なんかよくわからないけど、二人とも応援してくれてるみたいだ。

琉・・・か・・・。どんなやつでもかまわねえ。叶愛は俺が守る。さっき何度も叶愛の名前を呼んだとき誓ったんだ。

「はっ、どんなやつだろうと関係ねえ。叶愛は誰にも渡さねえ。これは俺の初恋だからな。」

ここから、ツインスターズとスターピースの幕が開けた。

そして、俺の初恋をかけた叶愛との物語も-。
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