ひめごと。
春菊は慌てた。だって今、谷嶋を呼ばれれば、ただでさえ彼には迷惑をかけ通しなのに、余計、迷惑がかかってしまう。
そうなれば、優しい彼のことだ。大切な仕事にも行くことが難しくなるかもしれない。運が悪ければ、お抱え医師の話もなくなってしまう。
春菊は乱暴に目を擦り、涙を拭った。
「ハル? どうしました? 春菊、何かあった?」
タイミング良く、春菊が涙を拭ったと同時に、新たな人物がやって来た。長身で肩幅が広く、涼やかな相貌をした粋(いき)な男性は言わずとしれた、ここの屋敷の主。春菊の想い人である谷嶋だ。
春菊の前に現れた谷嶋は、普段とても冷静なのに、今はなんとなく慌てているようにも見えた。
それはきっと、仕事に行く支度をしていたのに呼び出されたからだ。
「なんでもありません。少し怖い夢を見てしまいまして……」
谷嶋に心配をかけてはいけない。
そう思い、春菊は眉毛を下げて口元に笑みを作る。