ひめごと。



 そこに居たのは、煙管(きせる)をふかしている恰幅のいい中年男性と、長身で肩幅が広いすらりとした粋(いき)な青年だった。

 その青年こそが春菊を診てくれている医者で、実は彼女の想い人でもある。


 涼やかな双眸(そうぼう)と高い鼻梁(びりょう)、そして肩までかかっている黒髪が白の衣服と調和している。

 年は三十前後で、年上の彼に思うのもなんだが、微笑めば口角の下にある笑窪(えくぼ)が現れる。

 普段、とても真面目な彼はとても凛々しく、そのくせ笑うと愛らしい。

 その表情の違いと、そして色事を生業にしている春菊を自分と同じように扱ってくれる彼に気がつけば心を奪われていた。


 だが、所詮(しょせん)自分は春を売る者で、目の前の彼は医師。

 身分が違いすぎる。

 春菊は小さく首を振り、恋心を追い出すと、二人の会話を何も聞かなかったように文机に汲んできた御茶をそれぞれの前に置いた。


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