空のギター
 父や母のためだけでなく、夢を共に行く仲間達や温かな声援をくれるファンのみんなのためにも、自分が出来ることをしようと思った。自分は今や、他人に影響を与え得る職業に就いている。だったら悪影響ではなく、良い影響を与えたい。いつか雪那が言っていた“音楽の素晴らしさ”を、風巳も伝えたいのだ。



「……何でもないわ!長旅やったけー、ちょっと疲れただけっちゃ。
そうや、QuintetのCD聴かしちゃる約束やったもんな。ちゃんと持ってきたでー!」



 顔いっぱいに笑顔を浮かべ、鞄の中から大切なCD達を取り出す。目を輝かせる母親と興味ありげな父親を横目に映し、風巳はCDをミニコンポにセットした。

 病室を彩るカラフルな音色が、空気を伝って廊下に届く。病室の外には、小さな音楽鑑賞会を密かに楽しんでいるパジャマ姿の子供達が居た。所々の歌詞を口ずさむ母親を見て、風巳は自然と笑みを浮かべていた。



「……そういえばあんた、今年は誕生日プレゼント要らんがやない?」

「要るわい!10月30日、待っとーけんなぁ!!」



 三つの笑い声が響く。故郷(ふるさと)はこんなにも温かい。風巳は胸いっぱいに、その空気を吸い込んだ。
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