空のギター
「……部長さん、そんなに俺の演奏気に入ってくれたんですか?」

「あぁ!あんな演奏見たことないよ!!『鍵盤の上で指が踊る』って言い方をする人が居るけど、踊ってるなんてもんじゃない。君とピアノが一体化してて、まるでピアノが人と意志を共有してるみたいだった!!」



 紘は控えめな声で「そうですか……」と呟く。放課後の廊下を落陽が染め、赤の世界で二人の人間が顔を合わせて立っている。紘の次なる言葉を、音楽部の部長・真田は固唾を呑んで見守った。



「……俺、コンクールとか出られないけど良いんですか?」

「コンクールにプロを使おうなんて卑怯なこと、僕達は考えてないよ。ただ、音楽祭なんかで君と一緒にオーケストラが出来たらどんなに良いだろう、って思ったんだ。
それに大好きな陸上部にだって、忙しくてあまり顔出せてないんだろ?君と同じクラスの女子が言ってたよ。『グラウンドで体育の授業をやってると、チラチラ見てました』って。」



 真田の言葉に紘は頷く。仕事上いつも部活に参加出来る訳ではなく、まだ走っていたいのに早めに練習を切り上げることもよくあった。他の部員達が風を切って走っている中を帰るのは、やはり辛かったのだ。
< 112 / 368 >

この作品をシェア

pagetop