空のギター
「……俺、頑張ってみるよ。自分のやりたかったこととは微妙に違うけど、何か楽しめること見つけてみようと思う。」



 沈黙を破る頼星の声。彼に続き、他の面々も口々に言う。



「俺達きっと、まだ自分の立場がよく分かってなかったんだな。」

「そうだね……これからはもっとお客さんを意識しないとね!」

「紘は既に意識してるよ。人一倍手振ってるし、笑顔炸裂じゃん!俺も紘見習って頑張ろうかなぁ……」



 光夜・紘・風巳が言うと、頼星が頷く。ゆっくりと、四つの視線が雪那に注がれた。



「……お前は何かねぇのかよ。」



 頼星を除くメンバーや関係者達・いつも温かく見守ってくれるファンへついている“嘘”が、針のように心を刺激していたのだろう。冷淡なようで優しい頼星の一言に助長され、雪那は強張っていた表情を少しだけ緩めた。

 自分に出来ることは何だろう。考えに考えたが、雪那に言えることは風巳の話を聞く前と全く変わらなかった。



「……俺は、とにかく歌う!歌とギターで伝えられること、精一杯やるよ!!」



 四つの微笑が返れば、雪那にも笑みが浮かぶ。窓の外で鳴く蝉達は、真夏の訪れを忙しなく主張していた。
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