空のギター
「俺がオーディション受けてみようって思ったのは、勿論音楽が好きだからだよ。だけど、少しだけ期待もしてるんだ。
……もし俺がデビューして活躍するようになったら、両親が見つけてくれるんじゃないか、って。」



 そう言った光夜の目には一つの曇りさえない。彼はずっと施設育ちだったが、自分を不幸だと思ったことはなかった。だが、“どうして自分には父親と母親が居ないんだろう”と寂しくなったことはある。やはり、自分の家族に一目で良いから会いたいのだろう。

 0歳の自分を大事そうに抱きかかえてやってきた若い女性と、その側を寄り添うように歩いていた男性。その話を聞いてから、光夜はずっと二人に会いたいと思っていたのだった。



「よこしまな理由だって思われるかもしれない。だけど俺、これからに懸けてるんだ。大好きな音楽で、俺のこと見つけてもらいたいんだ。
俺はここに居るお陰でみんなと出会えた。その奇跡を無駄にしたくない。もしこんな俺でも認めてくれるんなら、これからもよろしくな!」



 光夜はそう言ってニッコリと笑った。彼の話を聞いていた四人は、暫く言葉を返せなかった。“彼も”傷を抱えているのだと知ってしまったから。
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