空のギター
「俺も来年の春から東京で暮らすんだ!こっちの高校から音楽特待生の誘いが来てて……まぁ、妹と弟もついてくるみたいだから寂しくはならないだろうね。ただ、じーちゃん達を残していくのが心配だけど……」



 少し照れ臭そうな紘の口調。“特待生”の言葉に四人から感嘆の声が上がる。



「へぇー、凄いじゃん!この前紘のピアノ聴かせてもらったけど、プロ級に上手かったもんな。」

「そうそう、俺もびっくりした!ショパンでもベートーベンでも何でも来いだね!!」



 頼星と雪那が言えば、光夜と風巳もうんうんと頷く。紘は顔全体で喜びを示し、「ありがとう!!」と叫んだ。そんな彼を見てから、光夜が風巳に問う。



「風巳は確か、お父さんと二人暮らしだったよな?」

「うん。ウチは母さんが病気でさ……俺が中学に入った頃から入院してるんだ。俺も春からこっちで一人暮らしするから、もうすぐ母さんを父さんに任せるつもり。光夜と一緒だな!一人暮らし!!」



 風巳は悲しい顔を全く見せない。寂しい筈なのに明るく振る舞う風巳を見て、光夜はさっきまで弱音を吐いていた自分が恥ずかしくなった。これからは言わないと、心に誓った。
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