空のギター
 ──桜が散る様を描くような伴奏に乗せて、Setsunaが揺らぐ声を響かせる。どうやら、この曲を歌っている人を意識した歌い方のようだ。日本独特の“和”を思わせる、古文調の歌詞。蕾が段々と開花していく様子を表しているようなこの曲は、色に例えるなら淡い紫か桃色といったところだろうか。

 愛しい人と、今は距離があるけれど、暖かくなれば会える。自分はその日をずっと待っている。瞼を閉じれば、懐かしい声が聞こえてくるような気がする。春の兆しはまだないけれど、愛や夢をくれた“君”を想って、一人歩いている女性──そんな世界を綴った歌詞だった。

 語りかけるように心へ迫ってくるSetsunaの歌声と、曲の幻想的な雰囲気を見事に表現したHiroのピアノ。誰もが感動で目を潤ませ、涙脆い人はハンカチや服の袖で顔を覆っていた。

 最後の一音を響かせたHiroが、歌い終えたSetsunaを見やる。視線を交わらせた二人は、“俺達、やったな”とばかりに笑い合った。



「……ほーら、言った通りでしょ?じゃあ、みんなが落ち着くまで少し待ちますね。」



 得意げなHiroの優しい言葉に、慌てて涙を拭う人達。すすり泣きが小さくなってきた時──Setsunaが声を張り上げる。
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