空のギター
「──あれがQuintet……確かに歌もダンスも上手かったけど、私は絶対負けないわ!!」



 人通りの少ないセット裏で織春が呟く。“13歳の歌姫”と騒がれていた織春にとってQuintet、特にSetsunaは自分の存在を薄れさせると思ったのだろう。そんな織春を見て、隣のスタジオでトーク番組の収録をしていたタレント達がコソコソと話をしていた。



「あの子でしょ、13歳の歌姫って。」

「……らしいよ。海外留学なら私だって行ったのに!」

「若いから注目浴びてるだけでしょ。あの子、最近デビューしたQuintetって子達にライバル宣言したらしいわよ。」

「えっ、あの噂の実力派グループでしょ!?喧嘩売る相手、間違えたんじゃないの?」



 キャハハと笑う彼女達は、やけに面白そうな顔をしている。一体何を考えているのだろうか。



「つーか態度でかすぎ。ちょっと分からせてやんなきゃダメなんじゃない?」



 彼女達はニヤリと笑い、休憩中の織春に目をやる。織春はそんな会話には全く気付かず、スタッフと本番についての確認をしていた。

 ──これから起こる事態を、彼女は何も予想していなかったのである。
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