初めて会う従兄弟は俳優でした。

どうして?




「......なんで」




ドアノブを掴む手は微かに震えている。
抑えようと、片手を添えても、必要以上に震えて止まらない。






さっき、このドアの向こうに



彼はいた。



....私は、心臓がとまった。

.......そう、思った。



「隣に住むことになったから。」




........なんで。





どうして、また私の前に現れたの。


私は彼の行動にいつも狂わされる。


彼は俳優。

彼は従兄弟。



彼は.....私が大好きだった憧れの人。




ドクンと胸が高鳴った。





隣には彼がいる。


この一枚の壁の向こうに......



すぐ隣に.....?




「.....嘘。」



きっとこれもまた、からかいに来たに違いない。

昨日、逃げた私を笑いに来たんだ。


さっきだって私を笑った。

火事を起こすとかなんとか......。



だけど、彼は隣の部屋にいる事はまぎれもない事実。



だって......そんな


彼は有名な俳優。



こんなボロアパートなんか。





気が抜けたようにストンとドアの前にしゃがみこむ。




私がこのアパートに住んでることわかったんだ。

彼は、こんなボロアパートに私が一人で住んでること知っちゃったんだ。

.....イヤだな

.......まるで好きな人の前で失敗をして先生に怒られるような
そんな恥ずかしい感情を抱いた。


......なんかやだ。

知られたくなかった。





「寂しくなったら呼べよ。」



彼はそういった。



そう言って優しくした。



......もうやだ。何もわからない。



.....龍斗くんの思う意味も。

....考えていることもすべて。






ぁ。



気づくと手の震えは少しましになっているように感じた。



......手。



わたし...




慌てて私は立ち上がると、物置から救急箱を取り出し、裸足のまま

隣の家のベルを鳴らした。



私の部屋はアパートの一番端だからここで間違いはない。


.....いきなりの行動にて自分が自分で驚いている




だって、仕方がないんだもの。


あの時の、

......彼の切ない顔を脳裏によぎる。


そのまま伸ばされた太くて血管が浮き立つ腕。





......イヤと思った。




なんで、また優しくするのと、彼の手を弾き飛ばした。





痛さに顔を歪めた彼の表情が

私の胸を傷つける。





「.....いねこ」


「手、手を出してくださいっ!」



びっくりしたような顔でドアを開けた彼の私を呼ぶ声に

食い気味に私は言うと



彼の腕を掴んだ。





「........あなたの...手を弾き飛ばしてしまったから...、あの時のあなたの顔を思い浮かぶと、」



「....ぇ?」


ドアの前で救急箱を広げ、湿布を取り出す。



やっぱり、私の体は震えて、泣きそうになった。




「だから...辛そうなあなたの顔を浮かべると、何処と無く寂しくなったから.......命令だって言われたから寂しくなったから来ただけであって...」



「......っ!?」



湿布のシールをはがしながら、
何を言ってるんだろうと自分でも思う。




「....別に、あなたの心配なんかきたわけじゃないですから。また、命令に背いてからかわれては困りますから、」


「っ!?」


そっと、湿布を彼の皮膚に当てると、冷たい感覚に彼の顔がひるんだ。



「.....だから、」


湿布を貼り終えるとペチペチと弱く叩き、上からテープと包帯で剥がれないように巻いていく。





「......手当てさせてください。」



「.......え。」





......恥ずかしい


おそらく真っ赤な顔をしていると思う。



いろんな言い訳を揃えて彼に言った言葉に
私の本当の気持ちはない。



だけど、手当てはしたい。






やっぱり、彼は嫌いだけど、



俳優の彼は好きだから。



仕事上、迷惑になってはいけないから。





「....できました。それでは......ごめんなさい。」



「.....まっ...て」




彼の言葉に耳を傾けず救急箱を手にとって私は彼に深く一礼をする。


無理だ、
今ここで彼の顔を見たら、

恥ずかしさでいっぱいになる。



.......ごめんなさい。



「...?」



下げたままの私の頭。


その時、目線に先で


........ぽとりと小さな雫が廊下を湿らせた。






これは、


........私のではない





「......は、早く行け。俺は仕事がある。」





慌てて私が顔を上げた時には
彼はくるりと私に背を向けたときで





あの涙の持ち主はわからない。





「....あと、ありがとな」






小さく鼻をすする音ともに



彼は、顔を隠しながらゆっくりと戸を閉めた。




頭に連呼する



.....甘い

.....彼の感謝の言葉が





「.....っ」






.......今度はわたしを泣かせた。







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