腹黒王子の取扱説明書
多分年齢は五十代で自分の父親とそれほど変わらないはずなのに、八十のおじいさんくらいに見える。

頬はこけ、身体全体が痩せ細っていて、麗奈の弟の言葉に何の反応も示さない。

そんな父親の姿を正視出来ないのか、麗奈は父親の側には行かず、ずっと顔を背けていた。

「麗奈」

俺は麗奈に声をかけ、彼女の背中をそっと押す。

だが、彼女はすぐに立ち止まり、なかなか父親の元へ行こうとしない。

「姉さん、もう時間がないんだよ」

麗奈の弟も諭すように言葉をかける。

それでも、麗奈は動こうとしない。

沈痛な表情を浮かべ、現実から逃げようとする。

複雑な思い。

麗奈の気持ちは俺にもわかる気がする。

もし、自分の母親が麗奈の父親のように危篤の状態になったら自分はどうしただろう。
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