腹黒王子の取扱説明書
「……いや、それは私のでは……」

伊澤が先生の突然の登場にたじろぐ。

「あっ、失礼。かけてましたね」

前田先生がにっこり笑う。

「君、田崎課長が探していたよ。ここはいいから、早く行って」

前田先生が私の方を向いて目配せする。

田崎課長なんていないけど……彼には伊澤との会話が聞こえていたのだろう。

伊澤の注意を引き、私を助けてくれた。

私は軽く頷くと、伊澤の顔は見ずに走ってちょうど着いたエレベーターに飛び込んだ。

私は制服のポケットから携帯を取り出すと、何かにすがるように両手でぎゅっと携帯を握り締めた。

俊に電話して彼の声が聞きたい。

でも、俊はまだ飛行機の中だ。

声だけじゃない。

俊に会いたい。

彼に触れたい。

俊に抱き締めて欲しい。

この不安をかき消して欲しい。

お願い……早く帰ってきて!
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