腹黒王子の取扱説明書
ここで目を逸らしたら怯えているのが彼にわかってしまう。

これ以上、漬け込まれるのは御免だ。

「本当に良いのかな?社長は知ってるの?」

伊澤が私の耳元で残酷に囁き、口角を上げる。

怖い……。

誰でもいいから、助けて!

お願い!

心の中で何度も懇願する。

受付の女の子は私を見てほくそ笑むと、横をスッと通り過ぎそのまま更衣室のある方へ歩き去った。

他に誰かいないの!

誰でもいいから助けて!

でも、頭にはここにはいない俊の顔しか浮かばない。

このままこんな男に従うしかないの?

驚愕に震えながら私は数歩後ずさる。

「一晩でいいんだ…‼」

伊澤がもう一度繰り返すように言ったその時、前田先生が現れて彼の肩を叩き、私と伊澤の間に割って入った。

「お取り込み中すまない。このメガネ落とされませんでしたか?」

前田先生がメガネを掲げて見せる。
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