腹黒王子の取扱説明書
ふと彼女の寝言を思い出す。

「私の分も幸せになって」と、彼女は確かに呟いた。

これは……弟に対しての言葉だろうか?

彼女の弟の言うことを信じるなら、家族思いの彼女にかなりひどい言葉で罵っていたように思う。

弟や父親のために夜もあんなバイトをしていたのなら、俺のあんな言葉を聞いてさぞかし辛かっただろう。

彼女の言い分も聞かず、勝手に彼女に母親を重ねてた。

ホステスって仕事だけで勝手に悪い女と決めつけて、俺は冷静さに欠けていたかもしれない。

……俺らしくない。

「あんなひどい事を言って悪かった」

今の彼女に言っても、俺の謝罪の言葉は耳に届かないかもしれない。

でも、言わずにはいられなかった。

「俺が悪かった。ごめん」

俺は中山麗奈の身体を抱き抱えながら、彼女の耳元でもう一度静かに呟いた。
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