記憶堂書店
龍臣も一度言った言葉だ。もちろんお祖父さんもそう言うだろうと予想はつく。きっと教師にも同じことを言われたのではないだろうか。
「へぇ。まぁそれもいいんじゃない? 今の若い子なんてほとんどそんなもんでしょう」
「そうだけど……」
修也はため息をついた。
将来、やりたいことがないのに大学費用をだしてもらってまで行く意味があるのかと悩んでいるのだ。ただ大学へ行って、なるべくいい会社に就職する。悪いことではないが、夢がない修也にとって、そてれはお金がもったいない気がしてならないのだろう。
進学するならなにか少しでも目標ややりたいことを見つけたい、そう思っている。
そんな修也を龍臣は羨ましく思った。
将来の夢のことで悩めるなんて羨ましい。自分は大学は出たけれど、やりたいことなど見つけられなかった。夢を語るより、まずこの店を継ぐ道しか龍臣にはなかったのだ。
小さい頃から祖父にお前はこの記憶堂を継ぐ才能があると言われ、継ぐことは絶対だった。
反発しなかったのは、やりたいことや夢がなかったから。
もしこの家に生まれず、記憶の本を扱う能力を受け継がなければ自分は何になっていたのだろう。
「修ちゃんはバカじゃないんだからなんにでもなれるわよ」
「……なんか褒められているのに言葉にとげがあるよ、あずみさん」
「だって将来に悩むなんて贅沢な悩みよ。ねぇ、龍臣」
「いいんじゃないの、若い子の特権なんだから」
龍臣は苦笑する。幽霊のあずみにそんなことを言われると修也はもう何も言えない。
「まだお前は高校生なんだから将来何て焦らずゆっくりでいいんだよ」
「うん……」
「そうよう。夢なんて持っても、考え何て変わるものだから。世の中には初めの夢とは全く違う仕事をしている人なんてたくさんいるわ」
あずみはさも世の中を知り尽くしているような言い方をしている。それが少し可笑しく切なくなって修也は「ありがとう」と体を起こした。
「俺にとっちゃぁ、お前なんてまだまだおもらしして泣いている時とそう変わらないからな。そんな子供が自分の将来を決定させるなんてまだまだ早いと思うぞ」
「龍臣君!」
「ぶぶ、おもらししていたの。修ちゃん」
「違うっ!それは小さなころのことだろ!」
修也は顔を赤くして抗議する。それに龍臣はニヤニヤした。
「俺にとってはこの間だけど」
「なにそれ! これだから大人は嫌だよ」
子どもの時となんら変わらない修也の拗ね方にますます龍臣は顔をほころばせた。