記憶堂書店
「お付き合いをされていたんですか?」
詮索をするつもりはないのだが、そう聞かざを得ないくらいに意外な組み合わせだ。
「いいえ……。別に恋人だったとか、そんなんじゃないです。ただ、ちょっとした過ちで……。結果、子どもが出来てしまいました……」
「それで西原さんは降ろそうと決めた?」
龍臣の言葉に井原は悲しそうに頷く。
「西原にとっては望まない妊娠。しかも相手は私なら尚更です。しかし、私はずっとこれで良かったのかと考えていました」
井原は目に涙を浮かべている。
「最近の西原は、はっきり言って落ち目です。だから、話題作りとして記憶堂で過去を見たがっていたのです」
なるほど、と龍臣は納得した。
話題作りでは記憶の本は現れない。強く過去を思い、願わなければ難しい。それでも、誰にでも現れるようなものではないが。
「記憶の本は、本当に心からあの時に戻りたいと願っている人のみに現れます。西原さんのように、話題作りの人の所には現れません」
龍臣がそう話すと、井原は大きく頷いた。
「そうです。本当に後悔しているのは私だけなんです……。もしあの時、西原の子供が生まれていたら……。いえ、私の子供が生まれていたらって、ずっと考えていたんです」
井原はその場に膝をついて崩れ落ちた。
嗚咽を押さえながらも、涙が床にポトポトと落ちている。