食人姫
俺は……何の為に麻里絵と逃げたのか。


神社の社務所の前にある木に縛り付けられ、哲也の親父さんに木の棒で殴られながら、そんな事を考えていた。


「巫女様を連れ出したやつは、本来は有無を言わさず処刑する所だが……」


「だったら……殺せばいいだろ。哲也を……殺したみたいに……」


今にも消えてしまいそうな、小さな声で、聞こえているかどうかも分からないけどそう呟いた。


そんな俺が気に食わなかったのか、親父さんは手にしていた棒で俺の頬を殴る。


「ふざけるな。哲也が何の為に死んだと思ってやがる。お前が死んだら……哲也が死んだ意味がなくなるだろ」


怒りに満ちた表情を俺に向けてるけど……言葉はそれを無理矢理押し殺しているようだ。


俺を殴る力も強く、これだけで殺されてしまいそう。


「光は……光はこんなに殴られたら……死ぬから……殴らないで……」


連れ出した俺の方が罪は重いだろうけど、光が同じように殴られると間違いなく死んでしまうだろうから。


「……殴りはしねえよ。でもな、巫女様と偽って儀式の間にいたのは……重罪なんだよ。この谷では到底許される事じゃねえ」


そう言って、本殿の方に顔を向けた親父さん。


俺もその方を見てみると……。
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