【完】山崎さんちのすすむくん



琴尾の命日から一月と半。


可憐に咲き誇っていた桜たちも舞い散り、木々はその広げた枝に鮮やかな新緑を纏っている。


爽やかな風が薫る、輝きに満ちた季節だ。


日の光を受け、力強く息吹く若葉は見ているだけで気力が湧きあがる。


行き交う人々も軽やかな装いに変わり、この心地よく短い時を謳歌していた。


それは、我らが屯所も勿論例外ではない。






穏やかに晴れ渡った空には真綿のような雲が小さく浮かび、間もなく天頂に昇ろうかというお天道様が縁側を暖かく照らしている。


……ふむ、確かに猫が日向ぼっこでもしてそな日和や。


猫が、やで?


間違うてもむさ苦しい大の大人が三人も並んで寝っ転がっとったらあかんやろ。


踏んづけてけっちゅーことか?


「……すみませんね、少し読書に夢中になっていれば、いつの間にかこうなっていて」


永倉くん、藤堂くん、原田くんの三人が狭い縁側を川の字に陣取る向こうで縁先に腰かけたその人は、眉尻を僅かに下げ柔和に微笑む。


「いえ、総長が謝られることでは」


読んでいた本をぱたりと閉じ、胸の下でゆったり結んだ髪を耳に掛けるのは山南敬助殿。


近藤局長に次ぐ幹部であり、また土方副長が鬼と呼ばれるのに対して、その柔らかい振る舞いから仏の総長と呼ばれている。


「どうぞ踏みつけて行って構いませんよ、こんな所で寝る方が悪いのですから」


…………呼ばれている。
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