【完】山崎さんちのすすむくん
「勿論、過ごした刻をなかったことには出来ません。心を通わせた相手なら尚更です。ですが人は痛みを忘れるからこそ生きていける……いつかその心が前へと動いた時、私の事は記憶の奥にでもそっと仕舞っておいてくれれば、それで満足なんですよ」
面と向かっていないからなのだろうか。
一瞬、何故か琴尾と話をしているかのような錯覚に陥る。
僅かに顔を向け、視界の隅で隣を見やれば、そこにいるのは間違いなく山南さんで。
目を閉じ何かを思い描くかのように優しい笑みを浮かべているその姿に、俺の中で何かがすとんと納まった気がした。
……副長といいこん人といい沖田くんといい……、なんで皆んななんや悟ったよな頭してはんのやろ。
色々悩んどる俺が阿呆みたいやんか。
実は試衛館て剣だけやのうて教えでも説いてはったんちゃう? 近藤教とか言うやつ。
今度俺も説法してもらおかな。
そんなくだらないことを考えながら苦笑いを浮かべ、ポリポリと頬を掻く。
「まぁ、たまに思い出してもらえるよう枕元にでも立つかもしれませんけどね」
わーほんまに立ちそー……。
一瞬ニヤリと黒くなった笑みに背筋を寒くして。
「……有り難う、ございます」
再び壁を見つめてそう言った。
ふっとその人が笑うのがすぐ隣で聞こえた直後。
──コンコンコン