【完】山崎さんちのすすむくん

一人が発したその言葉に皆が目を輝かせる。


「おねーちゃん、おっちゃんのお嫁さん?」

「へ? やっ……」

「うわーやりよるな、おっちゃん!」

「ええやん、折角やねんし一緒に遊ぼー?」


瞬時に俺から興味をなくし、言いたい放題で後ろにいた夕美に群がるのは幼さ故の身軽さか。


まぁ俺はええけど……。


日はまだ真上を過ぎたばかり。会って間もない俺達はまだ殆ど会話もしていないのだが。


ゆるりと立ち上がりながら、既に手を引かれている夕美に確認を籠めて視線を送ると、首だけで俺を向いたそいつは頼りなくも満更でない笑みをみせた。


……ま、たまにはな。


わいわいと賑やかに歩いていく五人の後ろ姿を眺め。


ほっこりとした温かさを取り戻した胸で短く溜め息を吐くと、俺もまたその後ろを歩き出した。






寒さに負けぬ風の子達と時間を過ごせば、此方も童心に返るというもの。


途中で買った芋をお八つに、近くの寺の境内を駆け回ること暫く。



「夕美ちゃんすすむーまたなぁー」


満面の笑みで手を振り帰っていく四人を見送る頃には、着ている物も彼方此方に泥が跳んでいた。


「結局呼び捨てやし。……俺だけ」

「ふふ、すっごく懐かれてまたしねっ」

「まぁ林五郎育てたんは俺みたいなもんやからな。扱いは任せとき」


擽ったい喜びはあれど、悪い気など微塵もなく。


寧ろ揚々とした気持ちで、雪の溶けた弛い通りを歩く。


程よく疲れた体、隣にある慣れた気配に、俺の気もまた緩んでいたのだと思う。




「なぁ琴尾……」


あまりに自然に零れたその言葉に一瞬、気が付かなかった。
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