【完】山崎さんちのすすむくん
動き始めた刻




湿り気を孕んだ風が深緑の京を通りを抜ける。


多くの人や車が行き交う橋の上でも、生温い一陣の風が一人の少女の手から薄い紙を浚っていった。


「あ!」


ひらりと橋を飛び出たそれに、少女は必死に手を伸ばす。


川の上へと大きくはみ出た体は簡単にそのバランスを失い、ぐらりと傾いた。


それを見ていた人間なら思わず声を漏らすような光景。


だが、



「あほっ!!」



響いた声の主が、その結末を覆した。



「自分相変わらずどんくさいやっちゃな! もーちょいで落ちてまうとこやったで!?」


まだ状況が飲み込めず、大きな目を更に丸く見開く少女の前で早口で捲し立てるのは、同じような年頃の少年。


「……つ、つとむちゃん……?」

「もーお兄、んないきなり怒鳴らんでもええやん、ビビってはるって」


その隣にはまだ幼さを残しながらも彼とよく似た、頭一つ分背が低い少年の姿があった。


「あ、初めまして凛ですー。自分が夕美ちゃんやろ? いっぺん会ってみたかってん、ほらお兄がよお夕美夕美五月蝿いから」

「ちょ、いらんこと言わんでええねんこのあほ!」

< 494 / 496 >

この作品をシェア

pagetop