マネー・ドール
 俺の掌にはいつの間にか、真純のおっぱいがあって、慌てて手を引っ込めた。
「ご、ごめん……」
真純は少し笑って、体を倒して、俺の首に、細い腕を絡めた。
「欲しいものがあるの」
「……何?」
真純は、恥ずかしそうに笑って、俺の耳元で囁いた。
「……慶太……」
真純……そんなこと……初めて言ってくれた……
「うん」
俺はめっちゃめちゃ緊張して、指が震えて、なかなか真純のパジャマのボタンが外せなくて、俺達はちょっと笑ってしまった。
「緊張、しちゃって……」
「私も」
やっとボタンが外れて、開いたパジャマの下は素肌で、首には少しシワがあって、鎖骨は痩せていて、おっぱいは少し小さくなっていた。だけど俺は、この二十年間、いや、四十年間で、最高に欲情した。
「真純……愛してる」
俺はスエットを脱ぎ捨てて、ズボンもボクサーブリーフも脱ぎ捨てて、真純のパジャマのズボンとパンツを一緒に脱がして、ふわふわの靴下も脱がして、体を合わせて、舌を絡めて、首筋を噛んで、もう、よくわからないけど、真純の体が俺の体と溶接されるんじゃないかと思うくらい、俺は、俺達は、俺達の体を貪った。テクニックも、スタイルも、何も考えずに、俺は真純が感じるように、切ない声を上げるように、あの九月の暑い部屋のように、俺達は、目の前の俺達に、夢中になった。真純は俺の腕の中で、身を捩って、掠れた高い声で、うっとりと体をひくつかせながら、虚ろな目で、髪の毛が何本か入った半開きの唇で、俺の指を濡らしながら……呟いた。

「慶太……私のこと、好き?」

 俺の下で、そう言った。二十年間、ずっと言って欲しかった言葉を、やっと、やっと言ってくれた。その顔は、最高に色っぽくて、かわいくて、愛おしくて、あのセックス部屋の横顔より、ずっと、ずっと、俺は……真純……
「好きだよ、真純……好きだよ……」
あの夜、杉本が門田真純を抱きながら呟いたように、いや、もう、それ以上で、俺は真純の耳元で、心から、そう言った。
真純はにっこりと微笑んで、目を閉じて、私も好き、って呟いた。

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