うちに動物が来た
「家の中では人間の姿で居ても良いですか?動物の姿は窮屈で…」

「敬語なんて使わなくていいのよ、私達は家族なんだから」

「はすくん!!」



家族ってこういうものなのか。
きゅっと俺の手を握る小さな手は暖かくて、きゅっと握り返す。
俺達は生まれた瞬間に周りの者の記憶から自分の存在を抹消する。
生まれた瞬間だから思い出なんて何もなかった。

向こうの世界では大人の言う事は絶対で、あまり留まりたいとは思わなかった。
だから大切な友人達を置いてまで、この歳で人間界に来たのだ。

大きな黒眼が俺を覗き込む。




「はすくんは、美緒のこと美緒って呼んでね」

「…美緒は自分の事美緒って言ってるんだ。ははっ…可愛い」

「えへへ///」



口からぽろっと、思ってもみなかった言葉が出た。
いや、思ってはいたが言うつもりはなかった。

この少女…美緒は全く手に負えない。
ただ、そんな美緒を見ていて面白い。



「はすくん、わんちゃんになって!」

「…仕方ないなぁ」

「はすくんあったかい」



ぎゅっと抱きしめられ、美緒の体温に包まれた。
どこか、違和感を感じた。

少女は嬉しそうに笑っていたが、両親の表情はどこか暗いものがあった。
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