新訳 源氏物語
桐壷

ある男、語る

薄紅色の着物で着飾った木々が、主役になる季節が今年もまた一歩一歩確実に近付いていた。

冬季の厳寒に無言で耐え続けてきた小さな命達が、優しく柔らかな陽光に誘われて姿を見せ始める。

高く厚い塀で取り囲まれ、外界から隔離された宮中でさえも徐々に上昇する外気に呼応するかの様に活気を増し始めていた。

そんな中で宮中にたった一つ、まことしやかな噂が蔓延していた。

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