情熱のメロディ
 「主題に戻るときは、困難を乗り越えた2人が結ばれるんです。ありきたりかもしれませんが……」

 ミュラーと王妃はどんな恋をしたのだろうか。めくるめく、幸せな日々――アリアには訪れない夢――けれど、アリアは恋心を知っている。

 「恋焦がれる気持ちは、きっと昔も今も変わらないでしょう」

 ミュラーとアリアの恋の結末が違っても、その気持ちを表現することはできると信じたい。アリアにとって、カイは初恋だから。

 「恋……アリアは、恋をしているの?」

 ふいに、カイと視線がぶつかる。本人を目の前にして恋をしているような発言をしてしまい、かぁっと頬が熱くなった。

 「あ、あの……こ、恋というほどの――」
 「そっか……」

 アリアは慌てて顔の前で手を振るが、カイはまた瞳を揺らして笑った。その笑顔は苦しくて、つらそうで、アリアの胸を突き刺すようだ。

 「君に想われている男性(ひと)は、とても幸せだろうね」
 「カイ、様……?」
 「君は純粋で、素直で、こんなにも素敵な音楽を奏でる綺麗な心を持っている。そんな女性に愛されることは、どんなに幸せなんだろうって……」

 アリアに想われることが幸せだというのなら、カイは笑っていなくてはいけない。こんなつらそうな笑顔ではなく、“幸せ”を感じている笑顔でいなくてはいけない。だって、アリアの想い人は他でもない、カイなのだから。

 けれど、アリアが想いを告げずに恋を終わらせようとしている限り、彼がそれを知るはずがなくて……
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