情熱のメロディ
 片づけが終わると、カイはアリアを城の中庭へと連れてきてくれた。
 
 広い敷地には噴水があって、石畳で作られた道を囲むようにたくさんの花が咲き乱れている。城への出入り口付近には他とは分けてあるらしい花壇があり、花の名前が書かれた札も刺さっていた。

 「綺麗ですね」

 可愛らしいマーガレットが咲く花壇に近寄ると、カイがその前にしゃがみ、白い花に指先で触れる。

 「この花壇は、ミアが育てている花なんだ」

 ミアとは、カイの妹でフラメ王国の第三王女である。兄弟の末っ子でもある彼女はまだ9歳だったはずだ。

 「小さい頃からお母様と一緒にこの花壇をよくいじっているよ。って言っても、こうして綺麗な花をつけるのは、庭師の働きが大きいけれどね」

 言いながら、カイはとても優しい表情で笑う。

 城や上流貴族の家の庭の管理には、基本的に専門家が雇われていて呪文で温度調節や水分調節などを行っている。フラメ王国には四季があるため、それぞれの季節に合わせて花の種類を変えているところが多いが、季節はずれの花を咲かせることも容易だ。

 「ユリア姉様は雪が好きで、冬はこの中庭の花はなくなるんだ。ユリア姉様がお母様の実家へ移ってからもそれは変わらない」

 カイの姉であり、フラメ王国の第一王女であるユリアは4年前に軍人と結婚して、王妃の実家で暮らしている。

 その頃は、自由奔放なユリアは“キス魔の王女”なんて噂されていた。彼女の夫となった軍人も、なんだか訳ありのようで貴族の間ではあまりいい話にはなっていなかったけれど、今はそんな噂も落ち着いたようだ。
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