情熱のメロディ
 数日後、アリアはカイと共に再び服飾店を訪れた。

 以前とは違って重い気持ちで中へ入る――ドレスを選んでも、この気持ちが変わるわけじゃない。アリアがバイオリンを弾けなければ、音楽祭は失敗してしまう。

 アリアを推薦してくれたカイの顔に泥を塗ってしまう。カイに失望されてしまう。

 たくさんのことがアリアの心を掻き乱し、アリアは涙を零さないようにするのが精一杯で、目の前に飾られた色とりどりのドレスを見ても、気分は暗く沈んだままだった。

 「素敵……ですね。デザイン画よりも、華やかで、私にはもったいないです」

 アリアは努めて笑顔を作り、カイとのデュオにと作ったワインレッドのドレスに近づく。カイが気を遣ってアリアを連れ出してくれたのだから、落ち込んだ素振りは見せられない。

 「着てみてよ。僕はここで待っているから」
 「はい」

 アリアは頷いて、試着室へと入る。

 店員に手伝ってもらって着たドレスは、きちんと採寸しただけあって、アリアの身体にぴったりだ。胸元も窮屈すぎず、ウエストからスカートへのラインもとても綺麗に出ている。バラのモチーフもとても精巧に作られていて、まるで本物のバラをつけているかのようだ。
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