情熱のメロディ
 「アリア」

 ふわり、と……カイの低めの声と共に優しく大きな腕に包み込まれる。

 「君は……何を隠しているの?」

 そう問われて、息が止まった。アリアはカイの問いには答えず、カイの腕に力が篭る。カイの逞しい胸板に顔を埋め、アリアは彼の匂いを吸い込んだ。男の人の匂い……中庭でくれたマーガレットの花の香りを微かに感じるのは、きっとアリアが期待しているから。

 カイからの真実の愛が欲しい。

 だが、その願いは届くことはなく、カイは大きく息を吐き出してアリアから離れていく。

 「しばらく、練習を休もうか」
 「でも、音楽祭まではもう時間が――」

 突然の提案にアリアはうろたえる。だが、カイは微笑みを浮かべてアリアの頬にその大きな手を添えた。

 「疲れている……眠れていないんでしょう?スランプなんて、珍しいことではないよ。あんまり思いつめるのも良くないし、一度リセットするためにも練習はやめよう」

 スランプ――アリアにとって、それは初めてとも言える出来事だ。それに、原因がわかっていて、本当は解決策も知っていて……でも、アリアがそれを拒む限り脱せない。

 葛藤に押し潰されそうだ。

 「その代わり、次の練習の時間にはドレスの試着に行こう。すべてのドレスが出来上がったって連絡があったんだ」

 カイはいつものように笑顔を向けてくれた。アリアは重苦しい気持ちを抱えながらも、それに頷いて、カイと別れた。

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