情熱のメロディ
 確かにアリアの音楽は澄んだ川の流れのように美しく、認めざるを得ない響きを奏でる。けれど、嫉妬だとわかりながらアリアに優しくできるほどフリーダは大人になりきれない。

 それでもアリアなら音楽祭にふさわしい演奏ができるとも思っていた。それが、自信がないなんて――

 フリーダはアリアの吐いた弱音が許せなかった。音楽祭に出ることのできる演奏家はたくさんいる。競争率の高いフラメ王国で、王子直々の推薦で出演を決めたアリアが“自信がない”と言ったことに腹が立った。

 「カイ王子に取り次いでください。アリア・シュレマーの代わりに参りました、フリーダ・アンシュッツと申します」

 城門警備に当たっていた衛兵はフリーダを見て少し驚いていたが、音楽祭のことについてもきちんと把握しているのだろう、すぐにカイに連絡してくれた。それに、フリーダもフラメ王国では有名なバイオリニストだ。

 フリーダが衛兵に城のエントランスまで送ってもらうと、侍女が客室へと案内してくれた。そこではすでにカイが待っていて、笑顔を向けてくれた。
 
 「こんにちは、フリーダ」
 「ご無沙汰しております」

 フリーダは深く頭を下げ、挨拶をする。カイに促されてソファに座り姿勢を正すと、カイと目を合わせてカバンの中から楽譜を取り出した。それをカイへと差し出す。
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