情熱のメロディ
 淡い初恋は軽快に、けれど優雅に流れるように迷いなく……だんだんと想いが膨れ上がるのは、想い人と過ごす時間と彼のくれる優しさのせい。

 そして、期待と諦めの狭間で迷う。軽はずみな気持ちでは伝えられない想いと、見つけた同じ秘密の恋の結末を思って泣くようにメロディが切なく流れていく。

 カイが……カイさえ頷いてくれるのなら、アリアにもチャンスがあるのに。カイもアリアも、まだ正式な婚約発表をしていない。身分差だって許容範囲で、何より……2人は想い合っている。

 (カイ様も……)

 チラリと視界に入ったカイは、アリアをじっと見つめながら演奏をしていた。アリアと目が合うと、キュッと眉根を寄せて……そして、彼の音も変わっていく。

 ――『君は……自由に生きるべきだ』

 そう言い聞かせるようにアリアを突き放すような音。アリアがそれを追いかけて、それでも重ならない音が軋んで、不協和音になる――しかし、それがミュラーの夢とシンクロして今までにないくらい夢がリアルに表現される。
 
 ――『王家に縛り付けたくない』

 特別な家に生まれたが故の苦悩と、カイの優しさが生む苦しみがアリアにも伝わってくる。

 ――『僕は欲張りになった』

 カイはそう言った。でも、それはアリアも同じだ。カイもアリアを求めてくれているのだと期待した。秘密の恋を知って、真実の愛が欲しくなった。それなのに、音楽との天秤にかけたとき迷ってしまった。どちらも欲しいと……欲張った。

 ――『君のキラキラした音が僕だけのものならいいのに、僕だけのために弾いて欲しいって……』

 アリアも同じ。カイの優しさや笑顔が、アリアのためだけにあればいいと……この夢が永遠に続けばいいと思っている。
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