情熱のメロディ
 だから――主題へ戻るメロディに、アリアはすべてを乗せる――アリアは、カイが好きだ。

 初恋は、本当の恋になった。恋が楽しいだけではなくて苦しいものだということも知った。

 もっと、もっと……アリアは奏でたいと思う、カイの知らないアリアの気持ちを。

 (カイ様が……好き)

 届いて欲しい。

 応えて欲しい。

 そう、願いを込めて奏でる音は、アリアの成長を表すかのように大人びていて、美しさを含む。会場の空気を揺らすように響く音は、人々に届いているだろうか。

 アリアの想いに寄り添うハーモニーが優しくなる。練習では苦しいだけだったカイの音の変化に、アリアはカイの方へ視線を投げかけた。

 カイはまだ瞳を揺らしていたけれど、力強くアリアの音に応えてくれている。

 ――『僕が、いつから君を見ていたのか』

 そう、アリアは知らない。知らないから教えて欲しかった。カイがいつからアリアを見ていてくれたのか。アリアより早く芽吹いた秘密の恋が、今はどれくらい膨らんだのか。

 アリアは心地よいメロディに目を閉じた。

 あぁ……カイは、アリアのことを想ってくれている。

 それにアリアがまた応えて……2人のメロディが絡み合って、ハーモニーが重なっていく。

 これがアリアの求める音楽だ。ただ本能のままに、心の奥底から溢れ出る想いを伝えるアリアの情熱のメロディ――…

 やがて2人の演奏が終わっても、会場はシンと静まり返ったままだった。呼吸をすることすら憚られるほどの熱い音楽の余韻が会場に広がっている。
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