君が笑うなら
何かが、自転車に触れた。

自転車を止め、菜穂はサドルから降りると、視線を下にやった。そこには美少女と見間違えるような美青年が、いた。

「大丈夫ですか」
「……痛くはない、痛くはないぞ」

「目からなんか出てますよ」

「コレはよだれだ、目のよだれ」

「そんなわけないじゃいですか、立てますか?」

「立てる」

そっと青年は立ち上がり、……よろついて電柱にダイブした。頭には星がぐるぐる回っている。色素の薄い髪に、黒目がちな瞳は、なんだかすごくもろく見えた。

手を出しだすと、案外素直に青年は菜穂の手をとり立ち上がった。

「急ぎのようじゃなかったのか、邪魔したか?すまない」


チワワのように、じっと見つめる青年。責めると今にも、泣き出しそうだった。


「大丈夫です」

本当は早くこの場から立ち去りたかったが、青年を置いてきぼりにするのは罪悪新が許さなかった。

「じゃあ、俺は行くから」
「あ、さようなら」

走り去ってく(遅いけど)青年を見送って、菜穂は新聞配達所へと急いだ。
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