異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



夕食は何十人もいる下働きの人たちがほぼ同時に食べるから、六畳間程度の狭い食堂が一気に賑やかになる。


使い込まれた木のテーブルで肩がぶつかる狭さ。けど、あたしにはそれがとても嬉しい。


大理石のテーブルだとか、無駄に広いテーブルだとか。そんなのは一緒に食べてる気がしない。ちょっと動けば肘が当たるような、そんな距離があたしにはちょうどいいんだ。


『なごむ、今日の勉強はどうだった?』


料理長の奥さんであるサラさんが、気軽に話しかけてきてくれる。彼女は一番に声をかけてくれた、40ほどの女性で。赤茶色の髪をひっつめてうなじで縛ってる。6人の子どもがいる体格のいい肝っ玉母さんで、上の子どもは帝都で働いてると笑ってた。


『帝国史、はいまいちわからない』


2ヶ月スタラストス語を勉強してはいても、まだ発音も何もかもたどたどしい。そんなあたしに合わせて、みんなわかりやすい言葉選びをしてくれる。そんなちょっとした配慮がありがたい。


『帝国史、ね。まだ建国して百年なのに、そんなに難しいかなあ』


そう話すのは下働きで一番年が近いミミ。今15歳で、将来はちょっとでもいい男性を捕まえるんだ! との野望に燃える、なかなかしたたかな女の子。 とはいえ、先の戦争で親を亡くして、残った兄弟のために出稼ぎでこの翡翠宮で働いてる。

オレンジ色の癖のある髪の毛を後ろで三つ編みにして、くすんだ緑色の瞳がチャーミング。あたしよりよほどかわいいんだ。


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