異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。



こんな感情、知らなかった。


日本にいたころは、ただ毎日を生き抜くのに必死で。

自分の容姿や平凡さを理由に、恋愛なんてあきらめたなんて斜に構えていたけど。本当は憧れてもいた。


燃え上がるような、運命的な恋。一瞬でお互い雷で打たれたような衝撃的な出会いを。


その一方で、微かな期待は優しい人との穏やかな恋。平凡だけど、人並みの幸せが欲しかった。


ごくごく普通の平均的なサラリーマンと、ふつうに恋愛して何年かして結婚をして。一人でもいいから子どもが授かればいいな……って。


恋愛なんて要らないと言いながら、本当は誰よりも欲しがってた。


そう……


あたしは、本当は欲張りなんだ。


たぶん、きっと。誰よりも。


だって……


ほんの一時の睦言かもしれないのに、バルドから与えられた言葉に喜んでる。


彼が愛する人は別にいて、彼女とは相思相愛なのに。巫女の契約を理由に彼に迫って……なんて卑怯なんだろう。


ずるい女、計算的な女。それがあたしなんだ。


それでも、よかった。


バルドが一時でも手に入るなら……あたしだけを見てくれるなら。


契約を盾にして体だけを手に入れても虚しいだけなのに、愚かなことをしようとしてる。


あたしは、やっぱりばかだ。


どうしようもなく欲深くて、醜い女だった。


だけど、やっぱり……


彼が、欲しかった。


どうしようもなく、欲しかった。



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