異世界で帝国の皇子に出会ったら、トラブルに巻き込まれました。
「大丈夫だよ。何もしないから」
あたしはなるべくにこやかに話しかけながら、ボールを持って彼女へ近づいた。
「はい、これ。あなたのでしょう? どうぞ」
怯えた目をしながらも、女の子はおずおずと手を伸ばしてきた。一度、指先がボールに着いたけど、なぜか一気に手を引っ込めて。後ずさってしまいましたよ。
ガタガタ震えた上に、なぜか真っ青な顔をして。大粒の涙がぽたぽたと落ちている。
「ど、どうかしたの? 大丈夫!?」
慌ててハンカチをポケットから出すと、彼女のそばに寄って涙を拭う。今度は大人しくあたしのされるがままになった女の子は、逆にあたしにしがみついてきた。
「お姉ちゃん……あたしをたすけに来てくれたの?」
「え?」
助けに……って。どういうことだろう? この子は今、後宮に繋がる廊下にいる。特に囚われている様子もなく、自由に出歩けているんじゃないの?
「どういうことかな? なにか困ったことでも?」
お腹に気を付けながら膝をついて女の子の目線を合わせた。彼女はあたしの腕を掴んだまま、離さない。
「……兄上様が……あたしを離してくれないの」
「お兄さんが?」
仮に皇女様なら、兄というとやはり皇子ってことだよね。どういうことか、とミス·フレイルに訊こうと振り向いて――驚いた。
だって。
ミス·フレイルどころか、護衛のロゼッタさんも、他の護衛兵や女官……果てはヒスイまで姿がなかったんだから。
こちらこそ、どういうこと? って状態だよ!