さよならさえ、嘘だというのなら

凪子の悲鳴が高くなる。

「ごめん。間違えた」
須田海斗は笑って立ち上がり、表情も無く凪子の頬に平手打ちをした。

「お前が悪い」
冷たい声だった。

「全てお前の企みか」
俺は流れる血を押さえながら、ゆっくり身体を起こすと奴は驚いた顔をする。

大丈夫
かすり傷。

「あ、間違って浅く刺した。生きてるじゃん西久保君」

「松本の頬に傷を付けて、ウサギ小屋に入れたのもお前か?」

「だね。田舎の子は単純だ。優しい言葉をかけて告ったら簡単にだまされる」

「お前……」

「バカが多いから簡単だったよ。逆に面白くないからさ、もう都会に帰るわ」

「全部言う」

「西久保君……」

君はどこまでバカなんだい?
そんな顔をして奴はまた笑う。

「君と僕の話。どっちを信じる?」

自信たっぷりの声だった。

「素直で優しい田舎の子達は、僕の話を信用している。ウサギ殺しは須田凪子。優しい兄は皆に謝罪。そして責任とって転校し、松本結衣の事件は僕の父親の権力で握り潰しておしまい。めでたしめでたし」

どこがめでたい?

「もう田舎は退屈だから、帰ろう凪子」
須田海斗は凪子の意志など関係なしに、手荒く抱きかかえて乗って来た車にまた戻ろうとする。

その車も親の権力か?
ふざけやがって……。

「最後にさ」
奴は俺に近寄り耳元で言葉をささやく。

「七瀬ちゃん?大西七瀬ちゃん?」
急に七瀬の名が出て身体中がビクッと震えた。

「あの子可愛いね。西久保君だけに教えるけど。今日の夜、ここで会って話をする予定なんだ」

「七瀬に手を出すな!」

「あの子は西久保君にフラれて、僕に夢中だから」

須田海斗はそう言い
俺の頭に思いきり蹴りを入れて去って行く

俺を呼ぶ凪子の声が遠ざかり

俺の意識も遠ざかり

そのまま

また倒れる俺だった。





< 117 / 164 >

この作品をシェア

pagetop