さよならさえ、嘘だというのなら


意識が戻ったのは
薄ら寒くなってきた気温の変化と
うるさいくらいに鳴っている着信音のおかげ

ぼんやりと目を開くと
俺は仰向けに倒れていて
綺麗な星空が見えていた。

夜?

起き上がると身体中が痛い場所だらけ
蹴られた腹と
踏まれた頭と
真一文字にカッターナイフで切られた喉元。

シャツに血がこびりついている。

うわぁ
二度目の血まみれ。

ぐわんぐわん鳴る頭を押さえて電話を取ると、妹のキンキン声が襲い掛かり余計に頭が痛くなった。

『お兄ちゃんどこにいるの!』

「あ?……えっと……」

あまりの迫力に言葉が出ない

『6時以降は外出禁止って言われてるじゃん。みんな心配して……颯大!』

急に妹から母さんに声が変わる。
妹より大きく鋭い声だった。

『無事なの?大丈夫なの?どこにいるの?七瀬ちゃんは一緒なの?』

七瀬?
その名前を聴いて痛みが飛び
頭の中がクリアになる。

須田海斗が七瀬を誘って
夜、ここに来る。

七瀬が危ない!

『七瀬ちゃんが行方不明なの。七瀬ちゃんは最近調子が悪くて貧血気味で、そんな時に急に連絡取れなくなっちゃって、みんな心配してるのよ。颯大と一緒なの?』

責めるような
一緒にいてほしいと
祈るような声だった。

「一緒じゃないけど心当たりはある」

そう
ここらへんにいるはず

近くに必ずいるはず。

「探してみるから心配しないで」

『颯大!』

叫ぶ母さんに心の中で謝りながら、俺は電話を切って立ち上がった。
< 118 / 164 >

この作品をシェア

pagetop