さよならさえ、嘘だというのなら

「まだ早い。早すぎる。本当は俺の役割なんだけど……やってみるか颯大?」

おじさんは真剣に言い
凪子の腕を引っぱり自分の胸に入れ
綺麗な髪を無造作に上げ白い首筋を俺に見せる。

俺は白いうなじをジッと見つめる。

凪子は静かにうなずき
おじさんの腕の中で目を閉じた。

俺は一歩凪子に近寄り
その首筋に唇を重ねた。

凪子の香りがする

柔らかく
なめらかな肌。

凪子の身体が一瞬ピクリと動き
俺はその瞬間
獲物を捕らえるように
彼女のうなじに歯を立てる。

身体の奥から
わからないくらいの力がみなぎり
血液が逆流したように
頭がカーッと熱くなり
目がチカチカして

口の中に違和感を感じた。


奥の方に

牙が

生えてる。




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